船舶1級取得:河口湖合宿編
前回記事では、初心者が突然船舶免許1級に挑戦するという話、そして学科試験の勉強について書きました。
私が申し込んだベルソンという教習所では、河口湖で2日間、実技講習と国家試験を行って免許を取得する合宿形式のコースがあります。
講習までの準備として、学科の勉強や実技の予習を行い、準備は万端。そして、いよいよ講習当日の日がやってきました。
河口湖へ
合宿コースといっても、2日間講習と試験があるだけで、何も合宿所に泊まって集団生活をするわけではありません。教習所が斡旋する宿もありますが、私は自分で予約した民宿に前日泊まりましたし、家から通ってもOK。
渋谷から河口湖行きのバスに乗り込み、一路山梨へ。御殿場を経由し、2時間足らずのうちに、河口湖に着きました。
民宿に前泊し、翌日から始まる実技講習に備えます。そして、当日の土曜日がやってきました。
車で10分ほどにある、小海公園という場所。朝8時半に桟橋に集合します。
この桟橋はベルソンが所有しているもののようで、3隻の教習艇が係留されていました。
私の参加した日程では、7名がコースに参加していました。1級が2名、2級が5名という内訳でした。そして教官は3名の体制。30代くらいのお兄さんたちでした。
講習開始!操船練習から
いよいよ教習が始まります。まず最初は、操船の練習から。
2隻に分乗し、教官と共に湖に乗り出します。
みんな始めての操船に緊張を隠せませんが、教官の丁寧な指導の下、発進から人命救助、離着岸など、実技試験で問われる重要項目を実践していきます。
クランクやS字などがある自動車の道路と違い、船が舞台とするのは大海原や広大な湖。広い水面を自由に航行するのは、意外と難しくありません。素人でも、曲がる、走るといった操作は簡単です。
しかし、海や湖川には風や波、潮の流れといった自然の摂理が働くので、車のように簡単にいかないことがあるのも事実。気がついたら流されてしまったり、波に揉まれて危機に陥ることもあるわけです。
感覚を身につけるために練習を重ね、少しずつ操縦に慣れていきます。
また、試験で重要なのは何よりも安全確認。自動車免許の試験でも同じですが、発進時などの安全確認を怠ることは減点、そして不合格につながります。
前後左右の見張り、船尾の確認、救助や着岸の場合はフックやロープの確認など、項目ごとに必要な確認を必ず行うことが重要です。
午前中の教習で、7名とも大体の操作の流れはつかむことができました。昼休憩を挟み、午後は桟橋に降り立って点検を行いました。
広い海を航行する船にとって、もっとも怖いものの1つが故障。車なら、エンジンが壊れても携帯でJAFを呼べば済みますし、自動車免許の試験にもエンジンルームを開けていじったりする項目は出てきません。
けれども大海原の上でエンジンが掛からなくなったらどうでしょうか。船はそのまま潮に流され、漂流してしまいます。沖に出れば携帯も繋がりませんし、捜索や救助にも時間がかかります。そして最悪の場合、死を意味するのです。
ですから、発進する前にしっかりとエンジンや備品を点検し、壊れた場合にも原因を突き止め、自分で対応できる力が必要。そのために、船体やエンジン、備品の点検を問う項目は大切なのです。
エンジンルームの構造はちょっと複雑ですが、学科を勉強していれば大体理解はできると思います。実物を見て軽く練習すれば、点検自体は比較的簡単にできると思います。
ロープワーク
そしてひとつの難関となるのが、ロープワーク。
ロープワークとして出題されるものには、以下のものがあります。
- もやい結び
- いかり結び
- 巻き結び
- ふたえつなぎ
- ひとえつなぎ
- 本結び
また、それ以外の結び方は、太めの縄跳びロープくらいのロープを渡され、ハンドルなどに結びつける形式で出題されました。
小さな舟でも巨大な客船でも、船というのはロープとは切っては切り離せない関係にあります。
クルーザーをロープで桟橋に繋いだつもりが、次に来た時に「船が無い!」では困ります。「アンカーを下ろそう」と思って錨を下ろしたら、錨のロープが解けてイカリが沈んでいってしまっては困ります。
ですから船乗りにとって、ロープワークは不可欠。とくに係留のロープの結び方はマスターしないと大変です。今回の講習では、みんなで練習用のロープを使い、桟橋に結びつけてみたり、実際に船のロープを使って係船の練習をしました。
スポンサーリンク
筆記模擬試験
ロープワークをみんながマスターしたところで、今度は近くのビーチハウスに移動。そこで明日の学科試験に向け、模擬試験をしてくれます。
独学での1級受験に不安を抱えていた私ですが、模擬試験を受けてそんな不安は霧消。というのも、2級、1級どちらも結果は満点。すべてパーフェクトでした。試験後、疑問が残っていた点を質問し、学科は完璧になりました。
やったー!と安心しましたが、これは私の頭脳が優れていたからではありません。出題されたのはほぼ全部過去問で、問題集で何度も目にしていた問題だからです。過去問暗記選択肢ゲーとこれば、わたくしの百戦錬磨の領域です。
ちなみに一緒に受講した2級を受ける生徒さんの中には、2級学科でなかなかの傷を負い、苦戦している人もいました。が、この理由は簡単なことで、問題集の演習が足りなかったからです。
過去問ゲーというのは、過去問を完璧にした人は満点、過去問をやらなかった人は点が取れません。とにかく問題集を何周かして、問題を覚えてしまうことが大切です。「トロール漁中の船の掲げなければならない灯火の色は?」なんて聞かれても、はじめから答えられる人などいないのですから。
ちなみに船舶の試験問題は、問いごとに出るトピックが決まっています。例えば問〇〇は天気の問題、問△△はエンジンの問題といった調子です。問題集には、それぞれについて15問程度類題が乗っていますが、だいたい似たようなものが多いです。たとえば船舶交通の「行会いの交通は右側に避航する」という原則が分かっていれば、類題のうち半分以上は解けてしまったりします。
教習を受けての感想
2日で1級免許を取得するという強行軍なプランだけあり、「ゴルァこの下手クソが!」と教官にどやされるかもしれないと不安でした。
しかし実際の教官のお兄さんたちは優しく、ダメダメで下手くそな私にも操縦を丁寧に教えてくれました。そして学科模擬試験の後、疑問点を親身に教えてくれたのが好印象でした。
ただし時間の関係上、操船している時間が少なかったのでやや不安は残りました。できればもう一回、一通りの項目を復習したかったですが、それをやっていると文字通り日が暮れてしまいますから仕方ないでしょう。
いよいよ本試験
身体検査・学科試験
用意された学科試験会場に移動し、身体検査と学科試験を行います。
身体検査といっても簡単なもので、受験番号が呼ばれるので、試験員のそばに行って視力(矯正ありで0.5以上ならばOK)、色覚(小さい点のような灯火の色を識別する)の検査機器を覗き込んで答えるだけ。ちなみに「船を乗り降りできる」といった項目は、「試験教室の階段を登って会場に来た」ということで証明されます。また、受験番号を聞き取った時点で、聴力検査はクリアです。なるほどですね!
学科試験は1級・2級を合わせて140分。ココでの注意点は、「本番は初見問題が出題される」ということ。前日に受けた模擬試験は全て過去問でしたが、本番は数問の初見問題が出題されます。2級の場合はある程度点数に余裕があり、初見問題の割合も多くはないので、過去問さえちゃんとしておけば大丈夫です。
しかし私が受けた1級の問題では、初見問題2問が出題されており、その割合は14問中2問。3問の海図問題を除いて、後の9問は過去問まるまるでした。
上級科目は10点以上が必要なので、3つの海図問題でたくさん点を落としてしまうと、もし初見問題ができなかった場合に不合格になってしまう可能性があります。
とはいえ私が解いた初見問題は過去問の改変や、基本的な知識があれば十分に対応できるものでした。しかも、初見と海図の配点が5点という事は、逆に考えれば過去問だけで9問取れるわけです。
要するに、問題集・教本の演習をしっかりしておけば、1級学科の合格は決して難しくないということです。
試験後、教習所の方が解答速報を見せてくれました。自己採点してみると……
1級学科14/14点 2級学科49/50点
心配だった1級の学科は満点でしたが、まさかの2級の初見問題で失点してしまいました。悔しいですね……。
とにかく、これだけあれば学科は大丈夫そうです。
実技試験
次は実技の会場に移動。会場は、ベルソンの所有する桟橋。つまり、実技講習した会場と同じです。
「国家試験」というから、てっきりどこかの見知らぬ会場に受けに行くのかと思いましたが、そうではありません。この合宿コースでは、あくまでベルソンが「国家試験の試験官を招いて、試験を行ってもらう」という形式。つまり教習所が第3者を呼んでいるだけなので、実技はベルソンの桟橋で試験をしますし、教習所のお兄さんもオブザーバーとして立ち会ってくれています。
試験開始前に、教習所のお兄さんとエンジン始動やロープワークなどのチェックを行います。そして、2級の実技試験が終わり、1級の番になりました。
1級を受験する2名(実は私と、私の兄)とともに試験艇に乗り込み、実技試験を開始します。
実は初日の実技講習では、自分が船を操縦できたのは午前中の半日だけ。それも交代で練習しますから、実際に私がコクピットにいた時間は長くありません。
不安が残る中、イメトレの記憶だけを頼りに操船していきます。安全確認だけには気を付けて、操船項目をクリアしていきました。
私は着岸ですこしミスがあったり、蛇行の最後で目標に直進し忘れてしまったりと、すこし間違えてしまうことがありました。が、全体的に致命的な失敗はなかったように感じます。ミスはつき物ですから、あまり気にしないことが大事ですね。
ベルソンの公式サイトを見ると、合格率は95パーセントくらいだそう。ホントかどうかわかりませんが、安全確認をすっぽかしたり、人命救助や着岸がどちらもできなかったりなど、相当なミスをしなければ不合格になることは少ないようです。
合格発表は次の木曜日(祝日の場合は金曜日)の朝10時にインターネットでされるそうなので、期待して待っておきます。
スポンサーリンク
宿泊
ちなみに今回宿泊させていただいたのは「一富士荘」という小さな民宿。
河口湖駅から徒歩10分弱の所にある、全8室のアットホームな民宿です。こちらは夕食つきで1泊5,500円と格安。バスやトイレは共同で、和室のお部屋です。
このお宿、Googleやじゃらんの評価がかなり高く、レビューでも絶賛されていました。建物は古く、お値段も安いのであまり期待はしていませんでしたが、良い方向に期待が裏切られました。優しい女将さんと気さくなご主人が営む、おもてなしの行き届いたお宿で大満足。タクシーが予約できなくて困っていたら車で送ってくれたり、帰り際に日帰り湯に行こうとしていたらタオルをくれたりと、心の琴線に触れるおもてなしをしてくれました。
高級な宿や、最新鋭のホテルに宿泊するのも素晴らしいですが、たとえ古くても気配りが行きとどき、家に帰ったような気持ちになれる場所というのは素敵なものです。
食事も絶品でしたし、河口湖で釣りやボート合宿なんかをする方にはぜひおすすめです。