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僕が精神科を専門に選んだ8つの理由

はじめに

こんにちは。ブログ「TOKYO STORY」オーナーの974(@Tokyostory_blog)です。

最近は他に管理しているサイトの運営や、その他諸々で忙しく、すっかり更新の足が遠のいていました。(忙しいというよりは創作意欲が沸かなかった)

久々の更新ですが、ご報告を兼ねて記事を書いてみることにしました。ご報告というのは、初期臨床研修を無事終了し、本年度から、精神科の専攻医として働くことになりました。

進路選びに迷っている医学生や研修医の方々に参考になれば、と思い、精神科を選んだ理由などを紹介していこうと思います。

専門科選びについて

医師の世界には様々な専門があり、同じ「医師」でも科によって仕事内容に非常に大きな差があります。それぞれの科にはメリットやデメリット、特色があり、どれが大事、どれが尊いと比べることはできません。ですが、自分に合った診療科を見つけることは、医師としてのキャリアに大きな影響を与えることになるでしょう。

医学部に入る時から「外科医になる!」と決意して初志貫徹する人もいれば、専門を決める研修医の後半になるまでちっとも目標が定まらない人もいます。どちらかというと、僕は後者の方でした。

きっかけ

僕は研修を始めた当初、特定の分野への興味はなく、何となく「内科に進むのかなぁ」と漠然と思っていました。内科医というのは医師の中でも最もオーソドックスで人数も多い科。内科に進めば、とりあえず無難だろう、と考えたからです。

しかし実際に研修を始めてみると、色々な問題点が見えてきました。「内科いじめ」とも言える新専門医制度。J-OSLERの壁。今や内科は不人気科となり、専攻医数の大きな減少も見られました。

僕の研修病院では、内科専攻医を取り巻く勤務環境はとくに厳しかったようです。3・4年目の身近な先輩たちが青ざめた顔をして「内科はやめとけ……」と愚痴っているのを見て、「何となく内科」という考えを再考せざるを得なくなってしまいました

新専門医制度、医療崩壊を招く驚きの新事実 - ライブドアニュース

https://news.livedoor.com/article/detail/14173142/

そんな中、僕はとあるきっかけから精神科への興味を持ち始めました。それは、びっくりするかもしれませんが「海上自衛隊観艦式」というイベントです。

「観艦式」とは、簡単に言えば、「海上自衛隊の持つ艦隊や装備などを実演し、国民や諸外国に見せびらかす」という3年に1度の大イベント。

前回の観艦式は台風のため大幅に内容が制限されてしまいましたが、もともと船や軍艦が大好きな私は、海上にずらりと並んだ自衛艦隊の威容に圧倒されてしまいました。それと同時に、「制服を来て、ここで軍医(医官)として働いたらカッコいいんじゃないか?」と考えました。

そう思って自衛隊の求人を調べてみると、幹部自衛官たる自衛隊医官は例年、一定数募集があることがわかりました。その応募要項にはこのように書いてあります。

自衛隊「医科・歯科幹部採用要項」より

見ると、海上自衛隊の医科の欄にはこう書いてあります。「特に内科、外科、整形外科、精神科及び救急科が望ましい」と。

当然、内科医は必要でしょう。あとは負傷した時のためにも、整形外科、外科、救急科は必須だろうことも想像がつきます。でも、あれ、「精神科」って……?これだけ毛色が違う。

でも、少し考えて納得が行きました。

海上自衛官は狭い軍艦や潜水艦に乗組み、何ヶ月間も航海したり、時に戦場に赴くことになるわけです。それは身体的にはもちろん、精神的にも非常にハードな仕事に違いありません。海自に限らず、極限環境で働く自衛官のメンタルヘルスの維持は非常に重要な課題なのでしょう。

これまで「身体のことは診れない医者の変わりモノ」みたいなイメージで見ていた精神科だったのですが、まさか自衛隊でもそんなに必要とされているとは。精神科に対する私のイメージは大きく変わりました。

そんな事がきっかけで精神科という分野に興味を持った僕は、選択研修でも精神科を回ってみることにしました。

その結果、最終的に色々な点を気に入り、専門科にすることを決断したのですが、その理由をいくつかご紹介してみます。

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精神科を選んだ理由

①人間全体を診ることができる

精神科では、初診の患者さんを診るときも、その人の生い立ちから人生、家庭環境など、じっくりと詳細な問診を行います。精神科で扱う病気は、患者さんの人生や性格、環境などが大きく関係してくるものだからです。

心の病気を理解し、治療するためには、簡単に言えば、「全人的」なアプローチが必要になるわけです。身体科での研修に慣れていた僕にとって、精神科におけるこのアプローチは非常に新鮮でした。

例えば、肺炎や消化管出血で入院してきた患者さんに対して、いきなり「あなたの人生とは……?」という質問をすることはないでしょう。

抗生剤で治療して、肺炎が落ち着いたら退院。消化管から出血しているから、内視鏡で止める。

もちろん「人間を診る」という姿勢は医師として忘れてはいけませんが、基本は臓器に対するアプローチがメインで、「その人がどういう人生を送ってきたか」「病気になったことが人生にどう影響を与えたか」といったことを考える余裕はあまりないはずです。

一刻を争う緊急カテーテル検査の最中にアンギオ室に飛び込んできて、「この人は昭和20年群馬県で出生ィ!少年時代は友達も多く活発な子供でしたが中高の成績は中の下ェ!」とか報告されても困ります。「その情報、今いらねぇよ!」ってなるはずです。でも精神科では、そうした人生に関する情報全てが診療にとって大事になってくるのです。

身体科においても、患者さんとベッドサイドで話していて「オレが若い頃はこんな仕事をして……」「私の夢は……」と言った人生のエピソードを聞くことが時々あります。

患者さんの人間性を知ることができて、個人的に好きな時間だったのですが、精神医学においては、そうした「人間を診る」という姿勢が身体科以上に重要になり、色々な人の人生に触れられる点は精神科ならではの面白さです。

②様々な分野で活躍できる

精神医学は「人間を診る」という学問だと申し上げたのですが、それゆえに、様々な学問分野と境界を接しています。心理学はもちろん、文学、教育学、社会学、宗教学などとも密接に関連があります。こうした点では、医学の分野の中でも最も学際的な領域と言っても過言ではありません。

また、精神医学の領域だけに限っても、産業メンタルヘルスや司法精神医学など、多くのサブ領域があり、働き方は非常に多様だと言えます。

有名な和田秀樹さんなどのように、精神科医をしながら文筆業で活躍している人もいれば、最初に紹介したように、極限環境の産業医として自衛隊で働いている精神科医もいます。また、同じく極限環境にさらされるNASA・JAXAなどの有人宇宙開発などの分野でも、精神医学の知見は不可欠でしょう。

精神科医の活躍の場は、地上から宇宙まで非常に多岐にわたると言えるでしょう。

③開業がしやすい

医師のキャリアを考えるにあたって、重要になるのが「開業」というアプローチ。働き方の好みは人それぞれですが、「開業して自分のビジネスを持つ」ということは、特に節税面などで大きなメリットをもたらします。

開業医が上手に経費を申告して節税する一方で、源泉徴収されてしまう勤務医は、抗うすべなく一生税金を搾取され続けることになります。

精神科においては、他の診療科のように高額な設備投資をする必要がなく、極端に言えば「机と椅子だけあればいい」という診療科です。初期費用が少なくてすむため、比較的ローリスクで開業しリッチな生活を目指すことができます。開業に億単位の設備投資が必要な診療科と違って、背負うリスクは格段に少なくなります。

また、実際に身体的処置(例えば内視鏡、レーザー治療などなど)が必要な診療科と違い、物理的な接触が必ずしも必要ないというのもメリットです。オンライン診療などが急速に普及している今、精神科のこうしたメリットはさらに加速していくでしょう。最近では、自宅にいる精神科医がオンラインで面接して処方箋を郵送する「オンライン精神療法」なんかも登場しています。

④医療現場で必要とされる

これは実際に医師として働いてみて実感したことですが、精神科医療は、医療現場においては欠かせない重要な役割を担っています。

例えば、入院中の高齢者によく起こる「せん妄」。入院中のせん妄は転倒などを引き起こして生命予後を悪化させたり、医療スタッフを疲弊させる厄介な問題。患者さんが凄まじいせん妄を起こし、看護師が涙する場面や、せん妄がきっかけで家族が医師に不信感を持ってしまう場面にも何度も遭遇しました。

担当医もお手上げ。そんな厄介なせん妄の患者さんに対しては、リエゾン精神科医に白羽の矢が立ちます。精神科医が病棟に赴き、せん妄のプロフェッショナルとして対応することになります。

高齢化社会の中で増え続ける認知症患者も大きな社会問題ですが、認知症を扱うのも精神科医や神経内科医です。高齢化の進行に伴い、精神科医に期待されるこうした役割はますます大きくなると予測されます

また、救急医療においても、精神科医は重要な役割を任されています。

僕は三次救急病院の救命センターでしばらく研修していたのですが、そこでは毎日数多くの自殺企図患者が搬送されてきました。

搬送された患者さんは救急医が一生懸命治療するのですが、せっかく命が助かっても、肝心の患者さんが「死にたい」と思っていたら救急医もお手上げです。そこで精神科医がコールされ、精神面へのアプローチが行われます。

命を救う救急医は掛け値なしにカッコよく、頼もしい存在ですが、それだけでは必ずしも全てが解決するわけではなく、精神面でのサポートも不可欠であるという事を救急科での研修で痛感しました。

⑤日常生活に役立つスキルが身に付く

精神科の治療に、「認知行動療法」というものがあります。

これは、「人間の気分や感情は、物事に対する認知の仕方によって変わる」という考えに基づいた治療です。

例えば、日曜日の夜の時点で、「月曜の朝に出勤するまで8時間ある」という事実があったとします。その事実を前に、「あと仕事まで8時間しかないよ」とブルーな気分になってしまうかもしれません。けれども、「あと8時間もあるから、ゆっくり準備して休息しよう」と考えれば、気持ちは少し落ち着くはずです。

このように、「出勤まで8時間」という事実に対しても、「8時間しかない」「8時間もある」という捉え方(認知)を変える事によって、人間の気分というのは大きく変わるのです。こうしたスキルは、日常生活においても応用できそうではないでしょうか。

精神科の診療には、薬物療法のみならず、こうした精神・心理的なスキルが数多く用いられます。身近な例では、有名企業などで用いられている「マインドフルネス」などは特に有名で、精神医学と深く関係のあるスキルと言えます。

このように、「人間を診る」商売である精神科で役立つスキルは、仕事や恋愛、教育など、ありとあらゆる人生の局面で応用でき、患者さんのみならず自分の人生を豊かにする事に役立ちます

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⑥オン・オフがはっきりしている

精神科のメリットの一つが、「働き方のオンオフがはっきりしている」という事です。

私が医師になって痛感したのは、医師には「プライベートなど存在しない」という事。忙しい内科や外科などの主治医になれば、土日であろうとお構いなしに患者さんの様子を見に行き、完全オフの日など存在しません。家に帰って寝ていても「患者さんの状態がおかしいです……!」と電話が掛かってきて、呼び出されることもしばしばです。

医師の世界ではこうしたことは日常茶飯事、太陽が東から昇って西に沈むレベルで当たり前に要求されていることですが、一般的なサラリーマンなどから見たら異常な働き方ではないでしょうか。

しかし精神科では、身体科と違って急変は少なく、比較的時間の流れがゆったりとしています。休日に呼び出されたりすることは少なく、9時に来て17時に退勤するという働き方をしている精神科医も多いようです。

ただし、こうした点は必ずしも精神科が「楽だから」というわけではありません。精神的に病んでしまった人と日々向き合う中で、医師自身も精神的に削られて「病んで」しまうことは珍しくありません。これは、夜中に起こされたり、長い手術に参加すると言った「体力的な大変さ」とはまた違った大変さであると言えます。

それゆえに、仕事とプライベートをしっかり区別し、オフの時間ではしっかりリフレッシュするということが精神科医にとって必要なのかもしれません。

また、医者には色々な働き方をしている人がいます。「家庭を顧みず、仕事一筋」「どれだけ大変だろうとも、患者さんのために働くことが幸せ」など、いろんな価値観はあって良いと僕は思います。

ただ、僕は自分のやりたいライフワークに挑戦したり、配偶者や子供のために尽くすといったことも「人生における重大なミッション」であると考えていることから、比較的メリハリのある働き方ができる精神科を気に入りました。

⑦一生働き続けることができる

上で紹介したように、精神科は外科などと違い、体力的な負担は比較的少ないと言えます。

それゆえに、「老眼になって手術ができない」「立ってるだけで腰が痛くて内視鏡をやってる場合じゃない」などの問題は生じにくく、歳を重ねても比較的働きやすい診療科であると言えます。

体力に自信がない女性などにとっても、これは大きなメリットではないでしょうか。

また、精神科は「人間を診る」という仕事である以上、自分が人生経験を積んでいくことで、自分の診療に深みがプラスされていきます。

例えば、「プライベートで女の子に振られた」結果として「オペが突然上手くなる」といったことはあまり考えにくいですが、精神科の場合、「振られてショックを受けた経験」が心を病んだ患者さんの理解に繋がる可能性は大いにあるでしょう。

このように、「自分の人生経験が治療に生きる」というのは、精神科ならではの魅力であると感じました。

⑧比較的早期に専門性が取得可能

近年、新専門医制度の開始に伴い、若手医師(特に内科)の間では不満が募り、マイナー科の人気が非常に高まっています。

精神科は、いわゆる「マイナー科」に分類される診療科ですが、精神科医の専門ライセンスは大きく分けて2つあります。「日本精神神経学会専門医」と「精神保健指定医」です。

精神神経学会が認定する精神科専門医は、いわゆる新専門医制度に基づいたものですが、5 年以上の臨床経験・精神科臨床研修を 3 年以上受けることなどが要件。サブスペシャリティに進むのに時間がかかる内科と比べ、比較的早い段階で専門性を手に入れることができます。

また、精神科医におけるもう一つのライセンスとして、「精神保健指定医」があります。これは精神保健福祉法に基づいた制度で、医療保護入院や措置入院などの判断を下すのに必要な資格です。

日常臨床では専門医より指定医の資格が必要となることが多く、まだまだ地方などでは引く手数多な状態であるため、指定医を取得することは若手精神科医にとっての一つの大きなゴールだと言えます。

こうした専門医や指定医の資格は最短で医師6年目に申請可能(相当努力が必要ですが)であり、専門性・資格の取得が比較的早期にできることがメリットです。これは妊娠・出産を控える若手女医などにとっても働きやすい環境であると言えます。

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まとめ

いかがでしたでしょうか。私が初期研修などを通して実感した精神科のメリットを8つまとめてみました。

大きな点としては、「人間を診る」という全人的医療ができること、資格取得が比較的早期にできることや、オンオフがはっきりしている点、働き方が多様である点(開業や産業医、学際的なキャリアなど)などが精神科のメリットであると言えます。

自分が選んだ道ということもあり、やや押し付けがましく他科と比べたメリットを書き連ねてしまいましたが、どの診療科にもそれぞれの役割や強みがあり、必要とされています。そして、僕はどの科の先生方のこともすごいなぁと尊敬しています。

だからこそ、どの科が尊い・尊くないといった不毛な議論や批判をするつもりはありませんし、結局は、自分に合う診療科を選ぶことが一番です。ただ、この記事を読んだ方が、精神科医というひとつの選択肢を考えるきっかけになれば嬉しいなと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

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神奈川県出身の20代医師。「クリエイティブに生きる」をモットーに、サイト運営・小説執筆・写真など、種々の創作活動をしています。 海が好きで、休日は海沿いの温泉街に行くのが生きがい。お気に入りの町は熱海。

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