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【英語学習法】非帰国子女の高校生が独学で英検1級を取得した話〈第10回 神の救済〉

これまでの経過

前回記事では、1級の1次試験に通過したにもかかわらず、2次試験に2度も落第した話をしました。

合計2万円以上の受験料を失った悔しさから、「リメンバー・山手」などと宣言して逆襲に燃えていた私。

けれども、問題はなぜ落ちたのか。

私はサボっていたわけではありませんでした。

過去問のトピックをかき集め、ひたすら家でスピーチを組み立てる練習をしました。

けれども、本番では緊張と焦りから、なかなか出来の良いスピーチが出来ませんでした。

ならば一体どうしたら、2次試験に通るのか。私は頭を抱えていました。

訪れたある「救い」

そんなある日。私の元に、ある方が訪ねてきました。

偉そうに「訪ねてきました」じゃありません。その方とは、私の高校の英語の先生なのです。

その先生とは、クラスの副担任をしていた、50代くらいの優しい男の先生でした。

そんな先生が私に話しかけてきた言葉とは。

「絶対に儲かる、うまい話アルヨ」

なんと、怪しい投資の勧誘でした(違います。)

先生に頂いたのが、

「面接試験で困っているなら、君の助けになりたいという人がいる。大きな挑戦をしている君を、受からせてあげたいんだ」

という言葉。

その先生は、「1級を受ける」という私の挑戦を見守ってくれていた副担の先生。

それまで前例のない、私の無謀な挑戦に、先生はこっそり目をかけて応援してくれていたのでした。

すっかり途方に暮れていた私にとって、その提案はまさに「救い」

先生は、校内で敬虔なクリスチャンとして知られていましたが、その時私は確信しました。

「キリストの生まれ変わりがいるとしたら、きっとこの先生のことだ」

大げさでしょうか。とにかく私は、2つ返事で先生の協力をお願いすることにします。

「助けになりたい」と言ってくれた方とは、高校の英語科にいる、ネイティブの先生の事でした。

実戦経験を積むことが課題

私に声をかけてくれた、副担の先生のアドバイス。それは「実戦練習を積むこと」でした。

それまで、私の面接対策とは、家でぶつぶつスピーチをつぶやく練習だけ。

そんな練習では、本番の試験のような緊張感や「スピーチをしている」臨場感が足りません。

実戦に慣れていなければ、一発勝負の面接試験に対応できないのも納得がいきます。

「実際に人に話してみる」というのは、簡単な作業ではありません。けれどもそれは、スピーキングの練習において不可欠な過程なのです。

 

そんな「実際にスピーチをしてみる」という練習のため、私はある放課後、協力を申し出てくれたネイティブの先生の元へ赴きます。

その先生は、スキンヘッドの良く似合う、オランダ出身の若い先生。いかにもいい人そうな男の先生でした。

「練習ハ週2カイ。キンヨウビと、Fridayネ」(それは週1だろ)

ともかくも、私は週2回程度、先生の元で放課後に面接の特訓を受けるになります。

放課後の特訓

私はネットの海から集めてきた過去問トピックを束にして、放課後の特訓に通いました。

時間をしっかり決めて行う、実戦さながらのスピーチ。ネイティブの先生だからできる、的確な質問や発音の指導。

指摘されることすべてが、私には目から鱗でした。

会場は、執務室のそばの小さな個室。

窓の外に広がる空はまるで砂時計。千切れ雲の浮かぶ空がオレンジ色に染まり、闇に包まれるまで、特訓は続きました。

お互いの息遣い、鼓動が伝わる小さな密室で、外国人のお兄さんと2人きりのレッスン。

何が起きたかは、皆さんのご想像にお任せします。(何も起きてねえよ)

 

冗談はさておき、実際にネイティブの面接官役を相手にして行う特訓は、それまでの学習効率を大きく超える、非常に効果的な練習でした。

練習すること数か月。実戦練習と一人での練習を繰り返し、過去問のトピックも尽きかけた頃。

ついに、面接試験の日がやってきました。

いよいよ受験

そして迎えた2次試験日。もう絶対に落ちることは許されない、3度目の挑戦です。

会場はもちろん、神奈川県・山手。もう3度目になる聖光学院です。

ルーズベルトさながら「リメンバー・山手」と意気込んだものの、間違ってもマッカーサーの如く「アイ・シャル・リターン(私は戻ってくる)」とは言いたくありません。

戻ってきてはダメです。

私は3度目の正直を果たし、山手に別れを告げるべく、意気揚々と聖光学院に向かいました。

神に祈る

会場に着いたは良いものの、後がない苦しい状況に押しつぶされ、私は極度の緊張と不安の中にいました。

「もし落ちたらどうしよう……」「もう一度1次試験を受けることになったら諦めよう……」

次々に浮かんでくる悲観を、振り払うことが出来ません。

そんな時、待機していた教室に飾られていた一枚の肖像。

それはキリスト教の象徴、十字架を背負ったキリストの姿が描かれた、一枚の彫像でした。

私はキリスト教徒ではありませんが、極限状態にあった私は、その神々しさに目を奪われます。

無為に過ぎていく時間の中で、私は藁をもすがる思いで、その銅像に祈りました。

「お願いします……受からせてください」

そして、試験開始

番号が呼ばれ、ついに面接が始まりました。

面接官は、いかにも英国紳士といった風のイギリス人と、滑らかな英語を話す日本人のお姉さん。

柔らかな雰囲気に、緊張がすこし和らぎます。

特訓を重ね、スピーチの準備は万端。簡単な会話を終え、ついにトピックを書いた紙が渡されました。

どんなトピックがあったか定かではありませんが、私が選んだのはこのトピック。

「日本は野菜の供給を輸入に頼るべきか否か?」

一見難しそうですが、似たような(輸入・輸出うんぬんの)トピックを演習したことがあったため、迷わずこちらを選択。

さっそく「輸入に頼りすぎるのには反対」という立場で、スピーチの構築を開始します。

しかし「野菜の輸入」という、地味なトピックに対して、頭が回転を止めてしまいます。

そんな時、「野菜」と聞いて浮かんできたのはなぜか「芽キャベツ」。

キャベツをミニチュアにしたような、小さくてニクいアイツです。

「芽キャベツ」の画像検索結果

https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-530

「いや、芽キャベツが輸入できなくてもとくに問題ないだろ!」と自分でツッコミを入れながらも、すぐに過ちに気づきます。

準備の時間はたったの1分。短い時間で2分のスピーチを組み上げるのに、1秒の無駄も許されません。

すぐさま芽キャベツの誘惑を頭から振り払った私。

けれども無情にも、時間は刻々と過ぎていきます。

考えついたのは、「輸入された野菜には農薬など、安全上のリスクが高い」という根拠だけ。

エッセイを成立させるには、せめてもう一つの根拠が必要でした。

しかしその時、冷たい電子音のタイマーが鳴り響きます。

「始めてください」

結局私は未完成のスピーチのまま、本番に突入します。

緊迫の1分。しかし…

面接試験において、スピーチでの失敗はつまり「不合格」を意味します。

そしてスピーチの準備が不十分のまま突入した今の状況は、その三文字を意味していました。

私はスピーチの前半部分を組み立てながら、必死で後半で主張すべき根拠を探します。

そして、いよいよ1つ目の主張が終わりかけようとした、その時でした。

「カタカタ……」

目の前にあった机が、小さく音を立てはじめました。そして、その音が次第に強さを増していきます。

「ガタガタガタ……」

大地を揺るがす激しい揺れが、突然会場を襲ったのです。

それは、震度4ほどの強い地震でした。

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Dr.974

神奈川県出身の20代精神科医。「クリエイティブに生きる」をモットーに、サイト運営・小説執筆・写真など、種々の創作活動をしています。 海が好きで、休日は海沿いの温泉街に行くのが生きがい。お気に入りの町は熱海。

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