時計がほしい
2月のある晴れた日曜日、僕はある気持ちを抑えきれずに家を出た。
その気持ちとは、「時計が欲しい」という、どこからともなく湧き上がってきた物欲のことだ。
僕はこれまで、時計をつけることなく過ごしてきた。
腕に何かを付けたまま過ごすのは邪魔くさいし、患者さんと接触する医療者としては感染管理上望ましくない。
それに、成金みたいに高い時計を身につけて見せびらかすのも性に合わない。そんな風に考えていたからだ。
けれども、時計がないと困る時もある。死亡確認の時、まさかおもむろにiPhoneを取り出して遺族に死亡時刻を宣告するわけにもいかない。
そして何より、毎日ランニングする時に、どのくらいのタイムで走っているか分からない。スマホをポケットに入れて走るのは重くて億劫だ。ちょうどその頃、僕はフルマラソンの大会にエントリーしていて、本番に向けて日々タイムを削ろうと走り込んでいたのだ。
マラソンやランニングの記録に使うことができて、かつ日常のシーンにもしっくりくる時計。そんな理想を描いていた時、ふと頭に思い浮かんだのは同期が付けていた「Apple Watch」だ。
そうだ、Apple Watchを買おう。
ビアンキの自転車を走らせ、駅前のヨドバシカメラに向かう。最新シリーズに拘らなければ、2万円ちょっとで買えるApple Watch。パソコンもスマホも全てAppleだし、時計も揃えれば互換性もバッチリ。ワークアウトも普段使いも、全て解決してくれるはず。僕はそんな期待を抱いて店内へ入った。
挫折
だが、Apple Watchのコーナーを物色していた時、僕はある衝撃的な事実に出会った。それはApple Watchのバッテリーが、フルマラソンを走りきるのに耐えないかもしれないという事実だ。
この記事を読んで、僕はApple Watchを買う気が完全に消え失せた。
フルマラソンにApple Watchを装着して行ったが、役に立たなかった理由2つ
もっとも、Apple Watchも年々進化を続けているし、5〜6時間程度のランニングならば十分対応できるとの情報もある。
しかし、フルマラソンを絶対に5時間で走り切れる保証もないし、バッテリーが5時間持つかもわからない。
一生懸命走ってタイムを記録しても、途中で電池切れしてしまったら何の意味もないじゃん。
僕は仕方なくApple Watchを諦め、スポーツに特化したスマートウォッチを探すことにした。
ランニングウォッチを探すのであれば、目星はいくつかあった。例えば、ランニング界隈では有名なガーミンのスマートウォッチ。
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実際に触ってみると、確かに高性能ではある。しかし、比較的安価なモデルではスポーツ用の腕時計のような野暮ったさが否めず、普段使いに向いているスタイリッシュさがあるとは言えない。
普段遣いにも耐えうる機能やスタイルを求めるならば、4、5万円はするようなハイエンドモデルを選ばなければならない。巷にはスマホで使えるランニングアプリが溢れているというのに、ランニングウォッチにわざわざ5万円を費やす予算は組めない。
「ダメか……」
僕は諦念を抱いたまま、ヨドバシカメラを出ようとした。
Huawei Watchとの出会い
店の出口に差し掛かったその時、僕は立ちどまった。そこに、まさに僕が求めていたような、とてもスタイリッシュなスマートウォッチが並んでいたからだ。
そこは、あのファーウェイのコーナー。並んでいたのは、「Huawei Watch GT」というシリーズのスマートウォッチだった。
並んでいたのは、丸いフレームにゴムや革のベルトを巻いた、高級腕時計のようなスタイリッシュなデザインの時計たち。
僕は早速、様子を見ていたスタッフに食い気味で話しかけた。
「この腕時計、フルマラソンに使えますか?」
すると店員のお兄さんは、待っていたかのようににんまりとした笑顔を浮かべて答えた。
「はい、使えます。普通に使えば、2週間近く持ちますよ」
「マラソンの記録もできるんですか?」
「はい。GPSを搭載しているので、スマホがなくてもランニングの記録が出来ます。もちろん、iOSアプリで確認することも出来ますよ」
「お値段は?」
「1万5,000円です」
僕はプライスタグを二度見して、目を見張った。
「買います」
僕は即答していた。再びにやりと笑みを浮かべたお兄さんが、丁寧にHuawei GTの黒い箱をカゴに入れた。会計を済ませると、僕は黒い箱を大切に抱いて、飛ぶように家に帰った。
走ってみる
家に帰ると、僕はさっそく海沿いのランニングコースへと出た。
使い慣れたユニクロのランニングウェア。ナイキのランニングシューズ。いつもランニングに出る時の格好。潮風を浴びて走る、いつもの道だ。
だが、その日は何か違った。左腕に巻いた黒いベルトの腕時計。そう、買ったばかりのHuawei Watchだ。
僕は両足を前に運び、ゆっくりと走り出した。
実際に使ってみると、ランニングのペースや心拍数、距離や経過時間などの基本的な情報はもちろん、走った軌跡までしっかり記録されている。走った後にスマートフォンアプリに同期されるので、携帯を持ち運ばなくてもランニングができる。
これまで、漠然とこなしていた毎日のランニングが、数値や記録に裏打ちされた充実したトレーニングの時間になった。
必要十分な機能
Huawei Watchには、他にも様々な機能がある。クールなものからクラシックなスタイルまで、個性的なデザインの文字盤。
心拍数などをモニタリングし、睡眠や歩数などを測定する活動記録機能。
ランニングだけでなく、サイクリングや水泳まで、シチュエーションを選ばずに使える様々なワークアウト機能。
LINEなどの通知を伝えるスマートフォン連携機能。
少なくとも日本で発売されているモデルでは、Apple Watchのようにオンライン決済ができるわけでもなく、ウォッチ上でLINEの返信ができるわけではない。だが、そうした機能がないと困るかと言えば、そうではない。何も小さな時計で操作をしなくても、ポケットからスマートフォンを取り出せばいいだけの話だ。
余談だが、スマートフォンとの接続が途切れると通知してくれる機能も意外と便利だ。自宅に携帯を置き忘れていて、家から出てすぐに時計の通知に救われたことが何度かある。
電池持ちは抜群
(2020/6/11追記)
数ヶ月間使ってみたが、やはり電池持ちの長さは素晴らしい。
毎日GPSを使って5kmランニングをしても、1週間以上は持つことが多いし、忘れたころに充電するくらいの頻度である。
電池持ちの長さを求めるならば、このシリーズはまず間違いないと言っていい。
健康への意識が変わった
実際にHuawei Watchを付けて生活するようになってから、自分の健康に対する意識が変わった。
今日はどれだけ歩いてどれだけのカロリーを消費したか。睡眠の質は十分か。時計を付けているだけで、必然的に自分の生活や健康状態をモニタリングするようになった。
そして、優秀なアシスタントを得たおかげで、ランニングに行く足も軽くなった。
もっとも、熱心に練習を重ねていたマラソンの試合は、コロナウイルス流行のために中止となってしまったのだが。
一人で走ることは孤独だ。けれど、だからこそ自由だ。誰と予定を合わせなくても、二本の足でどこまでだって走って行ける。
今日の調子はどうか。それを教えてくれるのは、耳元で鳴る風の音色や、速まる鼓動の音だけじゃない。
僕の左腕に巻き付けたHuawei Watchは、静かにペースを刻み、時に叱咤してくれるのだ。
これからも、この時計を付けて走ろうと思う。